十 西利太の村下

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 昼前。  青幡村(あおはたむら)にもどった布都斯(ふつし)下春(したはる)は、(いね)佐久佐比古(さくさひこ)をともなって宍道湖(しんじこ)の南岸に馬を走らせ、爾多郷(ぬたのさと)布都(ふつ)(やかた)へむかった。  午後。  布都の館館の広間に、布都斯と下春、稲、佐久佐比古、布都、乾那有(かんだある)尾羽張(おばはり)、布都の家族と、布都に仕える蹈鞴衆(たたらしゅう)が集まった。  夕刻まで上議(かむはか)りが行われ、西利太(せりた)を村にして木次郷(きすきのさと)に組み入れ、鉄穴衆(かんなしゅう)を蹈鞴衆の配下にすることが正式に決まった。 「これで、すべてが決まった・・・。  今後は布都斯が蹈鞴衆の総村上(そうむらが)を務めよ。村上(むらが)のお前たちで出雲、石見(いわみ)伯岐(ほうき)、隠岐を治め、先祖(うじがみ)の思いを遂げるのだ」 「父上っ。隠居するのかっ」  布都斯は驚いた。布都が(さと)の村上も退くのか、と思った。 「(わし)が蹈鞴衆の総村上を退くだけだ。儂たちは村上も村下(むらげ)もやめぬ。これまで同様、お前たちを指導してゆく。安心するが良い」  布都が目を細めてそう言った。 「安心したぞ。まだ、父上たちの助けが必要だ・・・。  父上たちが出雲の(さと)を豊かにしたように民を指導すれば、石見、伯岐、隠岐が出雲と一つにまとまるのはわかる・・・」  布都斯たちが出雲一の豪族と言われた遠呂智(おろち)を討った。鉄穴衆を蹈鞴衆の配下にし、西利太を木次郷の村にすれば、遠呂智が商いで支配していた石見と伯岐、親しくしていた隠岐の、すべてが蹈鞴衆の支配下になる。このことは他の郷々(さとざと)へ知れ渡り、蹈鞴衆の持つ徳と力を頼って、豪族や郷の衆が集まってくるはずである。
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