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「ほほう、少しは考えておったな」と布都。
「尾羽張から遠呂智の思いを聞かされた折に」
「では、一番、大切なことを言っておく。
皆、一刻も早く夫婦になれ。先祖の思いをうけ継ぐ子を一人でも多く持てるよう、子をたくさん産め。子は宝だ・・・」
人の思いは先祖の思いであり、その思いをうけ継ぐ者がいるから一族が繁栄する。
だが、子は数ある先祖の思いの中から己の思いを定め、その思いを遂げるため、親を選んで生まれてくる。従って、親の思いと子の思いは必ずしも一致しない。優れた魂が、この親のもとで親の意志を継ぎ、先祖の思いを遂げたい、と親と先祖の思いを選ぶよう、夫婦は日々精進せねばならぬのである。
「布都斯は稲を妻にする。下春も早く芙美を妻にせよ」
「承知しました」
下春と芙美が布都にお辞儀した。
「尾羽張は阿緒理を妻にせよ。櫛成在の了解は得てある。いやなら無理にとは言わぬ」
布都斯の姉・芙美は下春の許嫁である。そして、尾羽張が布都斯の妹・阿緒理に思いを寄せていることを、皆が認めている。
阿緒理が尾羽張にうなずいている。
「とんでもありませぬっ。お受けいたしますっ」
尾羽張はあわてて布都と布都斯に深々とお辞儀した。
「妻を持ち、皆、正式に村上となった。二組の夫婦が暮らすに、布都斯の家では狭かろう。政庁の館が建つまで、布都斯と下春は木次の村上の館に住み、稲と芙美を迎えよ」
「・・・」
布都斯と下春が返事しない。
二人のそばで稲と芙美が身震いした。
「予矛珠の霊なぞ出ぬゆえ、心配するな・・・。
皆、予矛珠の魂が先祖に召されるのを見たではないか。予矛珠が戒められるのを承知していた証だ」
「・・・わかりました」
布都斯と下春が言った。
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