十 西利太の村下

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 翌日、昼過ぎ。  快晴の下、和仁(わに)が二人の鉄穴衆(かんなしゅう)を連れて布都(ふつ)(やかた)に駆けつけた。 「上議(かむはか)りの結果を伝える前に、聞きたいことがある。上がってくれ」  布都斯(ふつし)は和仁たちを広間に上げた。  和仁たちを囲み、布都や下春(したはる)たち村上(むらが)村下(むらげ)と、布都に仕える蹈鞴衆(たたらしゅう)、そして、布都の家族が座った。 「何なりと聞いてくれ」  鉄穴衆の暮らしを思う和仁に、聞かれて困ることはない。 「首を()ねられる折、遠呂智(おろち)は笑っていた。蝦夷(えみし)を俺と知りながら首を刎ねさせた・・・。なぜだと思う・・・」  上座に座って問う布都斯から気配が消えた。和仁は布都斯に心を読まれるのを感じた。 「あれほど定めを犯したのだから、覚悟していたのだろう・・・」  和仁は遠呂智の思いを聞いていたが、遠呂智が遠呂智自身の立場をどのように考えていたか、何も聞いていなかった。 「ほんとうに、それだけか」  心を見透かす布都斯のまなざしを感じ、和仁はこれまでの思いを述べた。 「館で贅沢に暮らす頭領(かしら)がいなければ、鉄穴衆は出雲と石見(いわみ)伯岐(ほうき)(さと)に砂鉄と鉱石(いし)を商うだけで暮らせた。他の郷と親しく行き来し、鉄穴衆は皆、もっと早く妻を持てたはずだ。だから、頭領が身罷(みまか)ればいい、と思ったことは、これまでに何度もあった。そのことに頭領は気づいていたのかも知れぬ」 「遠呂智は鉄穴衆の行く(ゆくすえ)を思っていなかったのか」 「俺に鉄穴衆の繁栄を語ったが、本音(ほんね)は民を支配することだったと思う・・・」  鉄穴衆の繁栄のため、(くろがね)を支配して先祖(うじがみ)の思いを遂げる、と遠呂智は語った。遠呂智が騎馬隊を組織して蹈鞴衆を制圧すれば、民は遠呂智のなすがままである。 「なぜ、館を厳重に警護させなかったのだ」 「鉄穴衆に警護させる、と進言したが、頭領は、櫛成在(くしなある)の娘がいるから討たれぬ、警護しなくて良い、と言った。俺はそれ以上、強く進言する気にはなれなかった・・・」 和仁は話しながら、己の中に跳びこんだ遠呂智の胴体の霊を思った。遠呂智は生前、大神は蹈鞴衆にも加勢している、と語っている。
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