十 西利太の村下

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「俺の心を読んで何を知りたいのだ。頭領(かしら)が討たれたのはすべてが頭領の思惑(おもわく)だと言いたいのか・・・」 「そうは言わぬ・・・。  おそらく遠呂智(おろち)先祖(うじがみ)が我らに思いを託したのを知り、このままでは先祖の思いを遂げられぬ、と気づいて、みずから身を引いたのだろう」  布都斯(ふつし)は妙なことを言うと和仁(わに)は思った。 「ならば、先祖の思惑ではないか」 「そうとも言える・・・。  では、上議(かむはか)りの結果を伝える。  今から西利太(せりた)木次郷(きすきのさと)の村として扱う。  鉄穴衆(かんなしゅう)は今までどおり銑物(ずくもの)を作れ。  折をみて剣鍛冶の(わざ)を授け、蹈鞴衆(たたらしゅう)に組み入れる。これからは砂鉄と鉱石(いし)の商いをやめ、(くろがね)の道具を商え。  和仁は西利太村の村下(むらげ)と鉄穴衆の村上(むらが)を務め、我らとともに先祖の思いを遂げよ。  いずれは西利太の蹈鞴衆の村上も務めてもらう。  春になったら鉄穴衆と蹈鞴衆で騎馬隊を組織し、(まつりごと)を行う(やかた)を建てる。鉄穴衆を訓練し、館の建設に備えておけ。  今後のことはそのつど俺と下春(したはる)が指示する。それで良いな」 「それでは、遠呂智がしようとした事と同じではないか・・・」 『鋼物(はがねもの)は長持ちする。多く出まわればその後の商いは減る。そのうえ、皆が騎馬兵に駆りだされれば、作れる銑物(ずくもの)も鋼物も減る。これでは蓄えもできぬ。鉄の道具の商いだけでは、いずれ鉄穴衆は暮らせなくなる。  布都斯は何をする気だ・・・』  和仁は不安になった。
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