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あいつ。
私のお父さん。
あの人は。
お母さんを悲しませた張本人。
人生で最も恨む人。
私の両親は若かった。
お父さんは、きちんとしたサラリーマンで。
優しくて、本当に好きだった。
でも、7歳の冬。
風邪で学校を早退した私は。
仕事で忙しいお母さんは迎えに来れなかったから。
一人で帰った。
家に着くといつも鍵が開いてないのに。
その日だけ開いていて。
「ただいま~、お母さん?」
ゆっくり、家に入って。
自分の部屋にランドセルを置こうと思ったら。
隣の部屋から物音が聞こえた。
「お母さん?お父さん?」
隣は二人の寝室で。
廊下に出たら、ドアが少し空いてて。
中を見て。
私は衝撃を受けた。
お父さんが知らない女の人と寝ていた。
女の人の甘い声が聞こえて。
思わず後ずさるとポケットに入っていたキーホルダーの鈴が鳴ってしまった。
「誰だ?!」
お父さんはづかづかと私のほうに歩いてきて。
私は、泣いた。
お父さんが怖くて。
すると、お父さんは思いっきり私を殴った。
その瞬間。
ドアが開いてお母さんが帰ってきて。
もう、ド修羅場。
お父さんはお母さんも殴って。
女の人と出て行った。
それが、私が泣いた最後の日だと思う。
でも、今思った。
私は
「怖い・・・」
殴られているのを見て。
思い出した。
怖くて怖くて。
でも、涙は出ない。
こんなにも、怖いのに。
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