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マンションの部屋に入ったところで、スマートフォンが鳴る。「加賀美 涼」からの電話だ。
「お疲れさま。無事に帰ったみたいだな」
仕事の、完了確認の電話だ。
「800万で落札なんて、すごいじゃないか。これでリサも、高額商品の仲間入りだな」
「ねえ……」
私は、スマートフォンに語りかける。
「その800万だけど、落札者に返せないかな」
「どうしてだ? 落札者と、何か問題でもあったのか」
「そうじゃないけど」
「なら、返せるわけないだろう。もう入金処理が完了し、お前の取り分も送金済みだ」
私はため息をついてから、呟く。
「じゃあ、私がもらう分だけでも……」
「リサ」
加賀美 涼が、低い声で私の名を呼ぶ。
「あのときの約束を、忘れたのか」
「いいえ、忘れてないわ」
「あの日、お前は生まれ変わったんだ。それとも、また影に戻りたいのか?」
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