波旬の娘

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「名をきこうか?」 「レン、と」 楽しそうな紅葉に短く答える背後で、烏の顔をした異形が刃物を振るう。 レンと名乗った男は、後ろ手で頭上に錫杖を掲げて刃物を弾いた。 続いて、杖の塔婆形部分に細工がしてあるらしく、先端を取り外すと錫杖の尻に素早く差し込む。杖の先が素槍となっており、烏の二手を防ぐと喉元を突いた。 「どうした、お前ら。女が喰らいたいんだろう?」 物足りなさそうに言い放った男は、錫杖を旋回させる。 嬉々として異形どもを突いては地に伏させていく姿は坊主には見えない。 この男、何者なのか。 錫杖の槍と化した切っ先は、今や異形どもの流した血に塗れて、月の光も反射しない。 紅葉は黙って、異形どもが錫杖の男に倒されていく様を眺めていた。彼女の心根に、仲間意識というものは存在しないのか。 「そなたら、全く弱すぎるの。もう仕舞いか?」 どうやら、ないらしい。 「もう少し楽しませてくれるものと思うたのに」 欠伸を一つすると優雅に紅葉が立ち上がる。手にした扇を再度閉じると、真っ直ぐ錫杖の男の方へと飛ばした。
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