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長いまつげが顔に濃い影を落とす。
凪砂の意識も真っ逆さま。
また怒られるっちゃよ?
凪砂はだらず(バカ)だなー……。
そんなことを考えながら、顔の傾きと共にさらりと流れるサンドベージュの襟足の髪を眺めた。
エアコンの音だけが聞こえる中、時折さわりと揺れる髪を見続けていると授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
そのままHRになっても凪砂のまぶたは持ち上がらない。
ようやくその薄茶の瞳が開いたのはHR終了のチャイムが鳴った時だった。
またひとつあくびをし、ほとんど使っていないペンケースやノート、教科書をカバンに放り込むと席を立った。
そのまま教室の扉の方へと歩き、すれ違いざまにうちの頭の上にぽん、と手のひらを乗せる。
「さーや、帰るや」
そう言うとにこりともせずに先に行ってしまう。
……凪砂は基本的に挨拶以外は
“帰るや”
この言葉しか学校では口にしない。
だってずっと眠ってるから。
ふ、と息を吐き凪砂のあとを追いかける。
後ろ姿でもわかる気だるそうな感じ。
「凪砂、待ってや」
そう声をかけると視線だけちらりとよこして足を止めた。
一瞬だけ交わされる視線。
その瞳は透き通っていて、吸い込まれそう。
つと見つめていると、凪砂は黙ったままその場に静止する。
隣にうちが並ぶと凪砂もまた歩きはじめる。
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