眠り王子。

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「なーぁ、何ー……?」 答えようとしない凪砂に重ねて質問をする。 ちらり、とまぶたを軽く持ち上げると、さっきまで凝視していたネクタイと同じうちネクタイをくん、と引っ張る凪砂。 重心の崩れたうちの手元でクッと砂が鳴る。 潮の香りに混ざって香る凪砂の香り。 間近にあるほのかに揺らめく薄茶の瞳。 唇にかかる、吐息。 触れないギリギリの距離に詰められた凪砂の顔。 「……これで、わかるが?」 ほんの少し口角を持ち上げて凪砂が不敵に微笑む。 うちの心臓は今にも壊れそうだっていうのに。 そのまま凪砂はネクタイを引っ張る力を緩めると、またまぶたを閉じた。 これで、って…………。 これでって………………! 熱い頬、高鳴る心臓、 うちの全てに反するのは安らかな寝息。 …………ほんに寝てるかどうかは怪しいっちゃけど。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加