第3章

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トイレは混んでいたのかはたまた大でもしていたのか、夏井が戻ってきたのは予告やCMがスクリーンに流れてからだった。 「映画なんて久しぶりだ。デートの王道だな」 周囲の邪魔にならないように小声で俺の耳元に話しかける。 …そんな声で囁くとかやめてくれ。 俺の身体に、再び緊張が戻ってきた。 隣に感じる近い距離に、心臓が煩くなる。 嫌いな相手。謎に俺にキスをしてきた相手。 そんなヤツと映画を見るという異様な状況…。 「こんなもんデートじゃねぇっつーの」 「……つれないな」 それだけ小さく言うと、夏井は深くシートに腰を沈めて、長い足を組んだ。 ふざけたことを言い終え真面目に映画を見るための体勢になったと判断して、俺も軽く緊張を解く。 いよいよ映画が始まると、期待を裏切らず冒頭から引き込まれる設定で、俺はすぐにスクリーンに集中した。
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