第3章

24/42
前へ
/358ページ
次へ
油断していた俺は、ドキっと肩を揺らした。 「…っ、おぃ…っ!」 抗議して手を振りほどこうとするが、夏井はしれっとした顔でスクリーンを向いたまま俺の指を離そうとしない。 ごそごそと動いてはっきりと怒鳴ろうとしたところで、「ゴホンッ」というわざとらしい咳払いが近くの座席から聞こえて、声を潜めた。 「何やってんだお前…っ」 「…映画はいい所だぞ」 夏井は指を強く握り、その指を…あろうことか、舐めた。 「……っ!!」 言葉を失った俺に、夏井がこちらを向いた。 暗い闇に、細められた目が悪戯っぽく光る。 「しょっぱい」 「~~あんた…っ!!」 信じられない行動に、俺は思わず声を荒げて席を立ち上がろうとした。 「シーッ!」 今度は確実に注意され、マナーを破ることにも抵抗はあるから大人しくする。 …その分、俺の行き場の塞がれたイライラが募る。
/358ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3377人が本棚に入れています
本棚に追加