その後

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「……公式を当てはめれば答えを導くことはできます。だけど、よくありますよね、テストの最後は必ず文章題で、応用だから解けるはずなのに、やる気をなくして捨ててしまうってこと」 教壇から、数十人の生徒を前にしても落ち着いて説明を続ける、教師にしては若い男。 「俺も昔はそうだったんだけどね」 生徒達も心持ち浮ついた様子で話を聞いていたが、男が軽い口調で笑ったはとで少しだけ空気がくだけた。 「でも、数字や記号の羅列じゃなくて、その裏にある意味をイメージしてみるだけで、すごく自分の中で理解が進みます。例えばこの問題……」 とっつきづらそうな記号を使った問題を、分かりやすく噛み砕いてイメージを促す方法に、監督している数学教諭も興味深そうに頷き感心していた。 教育実習の授業初日だというのに、優の授業は画一的でも自分本位でもなく、生徒側の目線に立って構成されていたからだ。 後部ドアの窓から少しだけ覗きながら、現国の夏井教諭は、かつての教え子であり……最愛の恋人の姿を微笑ましく見守っていた。 「……すっかり成長しやがって」 思いが通じ合って早数年。 全てが始まったこの学校で。 もう一度、惚れ直した。
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