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俺は呆然としていた。
「どうした? 食べないと冷めるぞ?」
続いて青年が、俺の方を不思議そうに見つめ、尋ねてくる。
「いや、何もしてないのに、こんな――」
「若いのにそんなに気を使いなさんな。食べて、寝て、起きりゃ明日には元気になっとるよ」
「そうそう」
これは裏表のない単純な善意だった。
何かを貰うには、何かを与えなければならない。それが、俺の中の常識だった。だが、この村の人々は――。
「そういや、アンタ。仕事求めにこの村に来たんだろ?」
「あ、あぁ」
「だったら、俺の仕事手伝ってくれないか? 主に米とかの運送だけどさ。重いもの運ぶにも人手が足りなくてさ。このとおり、母ちゃんじゃあ無理だからさ」
「ちょ、ちょっと待て。俺で良いのか?」
「あぁ、体力と苺花様に挑む度胸があれば充分だ」
そう言って青年は大声で笑う。彼の母も笑っていた。
生きる道が途切れたはずなのに、違う道が簡単に示され俺は驚いていた。
「ちなみに給料には期待するなよ。その代わり、寝るところと三食だけは保証してやるから」
そんな充分過ぎる報酬を、彼は容易く提示する。
もう、解ったことだった。
この笑顔も、俺を運んでくれたことも、出してくれた食事も。
――そうか、この村の人々は……暖かい。
それがこの村の長のおかげなのか、どういった要因かは解らない。
ぷつりと切れた生きる道は、これしかないと思っていた。
だが、それは俺がそれしかない、と思っていただけなのかもしれない。
与えられた仕事が、俺のしたかった仕事だ、とは言えないだろう。それでも、俺の進む道が一本追加されたことは確かだった。
そして、何より――
「世話になる」
そう言った俺は笑っていたはずだ。
どうしたら良いのか解らなくなったわけではない。
この村で過ごすことが、きっと楽しみだったのだろう。
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