渡り鳥に止まり木を

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「おぉ、苺花(メイファ)様だ」 「苺花様―!!」  その声に主に全員が視線を向け、道を開け、その者――いや、彼女の名前を呼ぶ。  苺花、と呼ばれたのは小柄な女性だった。いや、少女と呼んだ方が適切かもしれない。    綺麗な桃色の髪に苺の髪飾りを付け、両頭部の少し上の部分で団子のように纏めている。  脚の露になっている短い服装に赤い靴。  大きな瞳に紅い眼を持つ顔は、可愛らしいものである。    そして、その彼女が持つのは……俺よりも数倍も大きな魚であった。 「はぁ?」  それを軽々と担ぐ、俺よりも細い彼女を目にして頭の中は混乱を越えて真っ白になった。  そして、真っ白の頭が生み出した回答は単純なものだった。  彼女のような人物がいるから、俺のやっていたことに村の者は驚かなかった。  ならば、彼女を倒せば良いではないか。  そうすれば、俺の実力は解ってもらえる。  だって、俺にはこの道しかなかったのだ。この道で生きてきたのだ。 「うおぉぉぉぉぉ!!!!」  冷静を失っていた。言い訳が出来るならば、その言葉が適切だろう。俺は彼女に駆け寄り、襲い掛かった。  跳びかかり、拳を振り下ろそうとしたときだ。  めきり、と鈍い音が俺にしか聞こえない音で響いた。閃光のような彼女の蹴りが俺の顔面を捉えたのだ。  蹴り自体は全く見えなかった。気が付けば目の前が真っ暗になり、僅かに開いた視界でそこに脚があったので、蹴りを喰らったのだとわかったのだ。こんなことは初めての経験だった。  後方へと吹き飛ばされ、俺は痛みを感じる前に意識が遠のいていくのが解った。 「何? あれ?」  遠ざかる意識の中、彼女がそう言った……気がした。
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