渡り鳥に止まり木を

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 その老婆と青年から、俺はその少女のことや俺が意識を失ってからのことを詳しく聞いた。    苺花と呼ばれた少女はこの村の長の娘だそうだ。とにかく明るく、とにかく強い。その強さは常識が通じない程で――まぁ、これに関しては俺の村の者達に見せた行為が大道芸だと思われるほどだ。  そりゃ、そんな彼女を毎日見ていれば、石を割ろうが木を砕こうが、それに驚くこともなければ、彼女を護ってやるなんて発言が大爆笑を招くのも納得だ。  そして、倒れた俺をこの村の人々がこの家まで運んでくれたようだ。多くの者が俺を休ませる場所を提供してくれたらしい。この家に決まったのは近かったからである。意識の失った男を運ぶのは中々の重労働だから仕方がない。 「それは、本当に申し訳ない」 「いやいや、こちらとしても苺花様に挑む勇敢な男なんて久々に見たよ」 「失礼なことをしたものだ。長のところにも謝罪に行かねば」 「あぁ、大丈夫だ。苺花様は気にしてないよ。それどころか、もう忘れてるさ」  俺の言葉に青年は高らかに笑いながら答えてくれた。  台所では老婆――彼の母親が夕食の支度を始めている。ことこと、と家庭の音が聞こえてきていた。    忘れている。  その青年の言葉が妙に俺の中に残った。  今まで生業としてきたことは、自分よりも幼い少女には全く通じず記憶にも残らないものだった、となると俺の生きてきた道は一体何だったのだろう。  ぷつり、と道が途切れてしまった感覚だった。どうしたら良いのか解らなくなると人は笑うものなのだろうか?  俺は俯いて、少し笑ってみせた。すると―― 「あいよ」  俺の前に、青年の母が白米、味噌汁、漬物……それらが乗った盆を差し出した。 「ほら、お食べ」
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