不機嫌な雪

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 九百九十八回目は、航空機のパーツが落ちてきて死んだ。  そして、今、九十九回目の挑戦である。 「――帰るよ……もう終わっちゃったし。お腹空いたし」  この台詞も、もう何度聞いたか……。 「……雪、聞いて欲しいことがある」  何回目からか忘れたが、僕はタイムリープする度に、まず雪にタイムリープのことを説明している。 「ん? なんだい? って……君、なんだか、死んだような目になってるよ」  死んだような目、か。 「ははっ」  思わず笑みが零れた。  本当に死ぬ奴ってさ、笑ってんだぜ。  最期まで冗談言ってさ……全員がそうかは知らないけど、雪はそうだった。  そんな台詞が喉から出かかった。  しかし、そんな話をしている余裕はない。 「僕、タイムリープしてるんだけど、って言ったら信じてくれる?」 「え? ああ――信じるよ」  耳にタコが出来るほど聞いた台詞と、今じゃ目をつむっていても浮かべられる満面の笑み。 「そっか、ありがと」 「ん、ああ、え? ありがとう、とか、君の口から聞いたの生まれて初めてだよ!」 「ははっ、その台詞はもう何回も聞いたっつの」 「タイムリープ……ね。それで、私はどうすればいいんだい?」 「逃げる。ひたすら」 「――はい?」 「もう九百九十八回も雪は死んでるんだぜ」 「え? え? ちょっと待って、どういうことかな?」 「そういうことだよ。ほら、早く逃げるぞ!」  戸惑う雪の手を握り、ナイフと金属バット二本を持って家を飛び出した。 「え? なんでバット?」 「なんでも、だよ。ほら、雪も持って」 「え、ああ」  この時間に飛び出すと、ランナーは玄関のすぐそこ。  ナイフが見えた瞬間、手を蹴り、頬を殴る。 「ええっ!? 晴っ!?」 「あいつが一回目の通り魔。ここで気絶させとかないと……また来るんだよ」 「へ、へぇ……」  障害物のタイミングはバラバラ。  前回あっても、今回はなかったり、急に新しい障害が出てきたりする。  これ、なんて鬼畜ゲーだよ、クソ野郎。  神社の前を通り過ぎる瞬間、雪を右側に移し、左から迫る鳥居をバットで殴る。 「……えぇ」 「これ、何回目だったかな……二十五辺りだった気がする」 「…………」  続け様に落ちてきた看板を打ち返し、更に進んだところの階段で躓きそうになった雪を引っ張る。
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