不機嫌な雪

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 繁華街で飛んできた皿をキャッチアンドリリース。  ドスを隠し持っているおっさんを避ける。 「雪っ! ここ同時に来るから! 右の看板気をつけて!」  雪が右の看板を難なく処理している間、左から突っ込んで来たバイクを躱す。  再び疾走。  繁華街を抜け、再び住宅街。  信号が青になったタイミングを見計らって、雪を抱き上げ走り出す。 「えっ? えっ? 晴っ? これは、ちょっと、恥ずかしいなっ!」  信号無視をした車を跳躍して避ける。  立ち止まるという選択肢は無い。  立ち止まると罠が新規で現れるのだ。  それならば、知っている罠の方へ進んだ方が幾らかマシというものである。  数々の罠をくぐり抜け、波止場。  ここは、すぐに通過しなければならない。  地震で津波が来るから。  走り抜けていると銃声が聞こえてきた。  ギャングが争っているのだ。  流れ弾をバットで処理し、駆け抜ける。 「うっわぁ……なんか君、人外さんになってないかい?」 「来る場所が分かっていればなんてことないだろ」  そのまま行けば高い壁。  背後からダンプカー。  壁を駆け上がり、身を翻して、衝突したダンプカーの上に着地。  跳躍して壁の向こうへ。 「はっ、天才、なめんなよ。同じ手が二度通用すると思うな」 「人間の領分超えちゃってるよ……私を抱えたまま壁を垂直走りって……」 「案外やれるもんだぜ」 「ふぅん。私も今度やってみようかな」 「止めてくれ、死ぬから」 「んなっ!」  そんな軽口を叩き合いながらも罠を避けて避けて避けて避けまくり、とうとう、雪が航空機のパーツにぶち当たって死んだ雪原までやって来た。  半径一キロ近く何もない雪原。  雪を下ろし、僕は警戒を緩めず佇む。  ここからは知らない領域。 「ねぇ」  息を整えた雪の呼び掛けに顔を向けずに応える。 「なに?」 「えっと、なんていうか……その、なんでそこまで頑張ってくれるんだい?」 「は? そんなん雪が大切だからに決まってんだろ」  そう、雪が大切なのだ僕は。  雪に死んで欲しくない。  そりゃあ、雪の記憶には死んだことなんて残ってないだろうけど、それでも雪は死んでいるのだ。  実に千近い数、死んでいるのだ。  失って初めて、というか、何度も失ってやっとそんな小さなことに気がついた。
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