不機嫌な雪

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「ありがとうはいらねぇだろ。好きな奴を助けたいと思うのは当たり前だ」 「す、好きなって、ははっ、またまた軽口かい?」 「いや、本気。マジLOVE100%って感じ」 「はぁ……それどんな感じだよ。本当に本気なのかい?」 「本当に本気だよ」  ふ、と首を動かし、雪を見ると、瞳が潤んでいた。 「え、いや、なんで泣いてんだよ」 「う、嬉し泣きだよ、ばか!」  ぐずぐずと泣く雪は子供のようで、妙に愛らしかった。  それとなく雪を引き寄せ、抱きしめる。  改めてやってみると、結構恥ずかしいな、これ。 「ねえ」  涙の溜まった瞳で僕を見つめる雪。  今度は色っぽかった。  なんだ、幼馴染みってこんなにいいものだったっけ? 「なに?」 「消しゴムのジンクス、知ってる?」  雪は僕の腕を解き、顔を赤らめながら歩み始める。  僕はなんとなく携帯を取り出した。  静かな住宅街。  急激に晴れ渡り星の輝く空。  語り出す雪。  なんか妙に絵になる構図だったから、写真の一枚でも撮っておきたかったのかも知れない。  そして、気抜けた声で応える。 「ん、ああ、あの、好きな人の名前を書いてーってやつ?」 「そう、それ。それやってたんだよね、私。高二にもなってさ」 「へえ」  となると、あれか。  あの小さい消しゴムがそれなわけか。 「ん? って、それってまさか……」 「うん、多分。ジンクス効果なんだよ、きっと。両想いになるまで死ぬのは許さない、みたいな。ふふっ、もはや呪いだよね」  そこで雪は振り返る。  気づけば言っていた。 「雪、大好きだぜ」  それに頬を赤らめて雪は応える。 「晴、大好き――」  そして雪は轢かれた。  角から飛び出して来た車に、呆気なく轢かれた。  時刻は七時十五分になったばかりだった。  其れは奇しくも、雪が初めて死んだ日と同じ。  ――運命は変わらない。
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