不機嫌な雪

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 途中で何故か消しゴムを取る。  随分小さな消しゴム。  指先に乗せられる程度の……そんな消しゴムだった。 「間違えたのか?」 「答え合わせをしているわけでもないのに間違えるもクソもないだろう。字が気に入らなかったんだよ」 「へえ。つーか、その消しゴムは流石にもう無理ぽくね」 「ここまで来たら使い切りたくなるものだろう? もう新しいのは買ってある」 「ふぅん。ま、いいならいいけど」  沈黙が支配する空間。  しばらく経ち、雪の腹から情けない音が鳴った。 「う……お腹空いた」 「飯、食ってく?」 「いや、いいよ今日は」 「別に遠慮しなくてもいいんだぜ?」 「君の作るご飯は量が多いんだよ」 「残せばいいだろ」 「いや、そういう意味じゃなくて、ね?」  ね? とか言われても困るんだが……。 「どういう意味だよ」 「んー、ま、天才にも避けられないことがあるってことさ。君はもうちょっと乙女心を理解した方がいいよ」 「乙女心、ねぇ……。そりゃ無理な相談だ。なんせ、乙女と関わることがない」 「えっ? おいおい」 「なんだよ」 「私、乙女! お、と、め!」 「なにそれ? 新手のギャグ?」  瞬間、顔面にスクールバッグが飛んで来た。  荒っぽい奴である。  この性格をなんとかしなければ、男女交際が長続きすることはないだろう。 「はあ、そろそろ帰るよ……もう終わっちゃったし。お腹空いたし」  問題集に目を向けると、最後の一問になにか文字が書き込まれているのが見えた。  そして、どうやら消しゴムの命も尽きたらしかった。  まあ、そんなことはどうでもいい。 「雪、お前謝罪って知ってるか?」 「ふふっ、知ってるとも。そんな君は土下座って知ってるかい?」 「知ってるとも」 「じゃあしろ、今すぐ。そしたら許してやらないこともないよ」 「は? なんで急に」 「……はぁ。なんかもういいや。君に理解を求めるのがそもそもの間違いだった。ごめんよ」  呆れたように謝られた。  僕の求めていたものとは違う。  結果としては同じだが、含まれている意味が確実に違う。 「帰るんだろ? 送ってくか?」 「いや、いいよ。どうせすぐそこだし」 「りょーかい」 「うん、やっぱり君はダメだね、いろいろと。じゃ、また明日」 「なんだよそれ、意味わかんねぇ。じゃあな」
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