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ひらひらと手を振りながら歩いて出て行く雪を見送り、枕に突っ伏す。
暇だ……暇過ぎる。
玄関のドアが開く音が聞こえ、なんとなしに身体を起こし、窓から雪の姿を伺った。
家庭の事情とやらでお隣さんから近所の人くらいの距離まで離れた家に向かう幼馴染みは、寒空の下ポツンと一人きりで夜道を歩く。
ぼーっとその情景を眺めていると、突然こちらを見上げた雪と目が合った。
笑みを浮かべ手を振る雪に手を振り返す。
日常。
いつもと変わらない生活。
再び歩き出した雪を頬杖をつきながら眺める。
ふと、気づけば雪の後方から誰かが走ってきていた。
男か女か、フードを被っていて判別出来ないが、恐らくランニングだろう。
こんな寒いのによくやるな。
勝手に呆れた視線を浴びせていると、ランニング……ランナーとでも言おうか。
ランナーが雪の背後に迫った。
――そして、刺した。
「……は?」
間抜けな声が漏れた。
二度、三度、続け様に刺される雪。
呆然とする僕。
「え、いや、えっと、おいおいおいおい……っ! なんだよあいつ!」
ようやく我に返り、窓を開け放ち叫ぶ。
「雪っ!」
一目散に逃げ出すランナー。
慌てて自室を出て、階段を駆け下り、靴も履かぬままに家を飛び出した。
「雪っ! 雪っ!」
叫びながら裸足で雪の上を駆ける様は、傍から見れば変人に違いなかった。
しかし、そんなことは気にしていられない。
雪の元に辿り着いたとき、雪は自身の象徴とも言える白々しい雪を紅く染めていた。
倒れ伏す雪を抱き上げる。
こういうときは動かしちゃいけないんだっけ?
それは頭を打ったときだっけ?
いつもならすぐに答えを出す脳も、今回ばかりは役に立たなかった。
「……は、る。こういうときはとりあえず、救急車と110番じゃないかな?」
そんな見透かした態度で微笑みかける雪の言葉に従い、携帯を取り出し救急車を呼ぶ。
「も、もしもし!? 通り魔に刺されて! い、いや、僕じゃなくて、友達が! えっと、ここどこだっけ? あれ?」
「冬木、だろう? わ、たしの……苗字を、忘れたのかい?」
「そ、そう、冬木! 冬木の三の四の十一! 早く来てくださいっ!」
まくし立てるように告げた。
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