不機嫌な雪

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 しかし、通話口の向こうに居る相手は落ち着いた態度で質問を続ける。 「目標物っ? なんだよっ、なにかあったかここ? えっと、あ、と、神社が横にあります! 冬木神社の真横です!」  その後も氏名だか、年齢だか、状況だかを聞かれた。  そうこうしてるうちにも、雪の血は流れているというのに。  なんでそんな……っ! 「ふ――」  笑おうとしたのか、少し口元を緩めた雪の顔が一瞬で苦いものに変わり、口から血を吐く。  数秒置いて、雪は口を開く。 「――き、君でも、慌てるんだね」 「当たり前だろっ! なんだよこれ……意味わかんねぇよ。そりゃ雪のことなんて憎たらしい奴だと思ってたけど、でも、あれだろ。し、死ぬとか、殺されるとか、それは違ぇだろ」  死ぬ、なんて口にしたくなかった。  もうなんとなく分かってたから。  これだけ血を流して、みるみるうちに青ざめていく顔を見れば、雪が死ぬなんてことは分かってしまっていたから。  むしろ、生きている方が不思議だった。 「なんだよ……そんなこと思ってたのかい? ま――」  再び吐き出される血。 「まあ、私……も似たよう、なことを思っていたのだけれど。はぁ、はぁ……も、無理」 「無理とか、やめろよ……。なんでそんな余裕そうなんだよ……意味わかんねぇよ」 「いや、なんて言うんだろうな……本当。晴に抱きかかえられてると思うと笑えるんだよ。ていうか、本当――もう無理。大好きだよ、晴」  そう言って自慢気に笑う雪。  最後の最期まで冗談を止めるつもりはないらしかった。 「はは……なんだよ、それ。死亡フラグかよ。生きてましたってオチだろ? 勘弁しろよ、まじで……」 「ふふっ、これ、で生きて……たら天才の領分超えてるよ。じゃあ私は先、に逝くからね。追ってくるなよ? また、ね」  雪は目を閉じた。  咄嗟に雪の脈を確認した。  まだ動いていてホッとした。  焦るように時計を見た。  七時十五分に変わった瞬間だった。  雪の脈が止まった。   **** 「――るよ……もう終わっちゃったし。お腹空いたし」  気づけばベッドの上だった。  夜。  つい何分か前の情景。 「雪……? 雪っ!」  スクールバッグに荷物を仕舞う雪を後ろから抱きしめた。  当然のように突き飛ばされた。
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