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「……どうしたんだい? 頭がおかしくなったのかな?」
「はは……生きてら」
なんだよ、夢かよ。
夢オチは予想してなかったぜ。
しかし、一瞬でとんでもない夢を見たものである。
「なんだよ。私を置きざりにして思索にふけるのはやめてもらいたいのだけれど」
「雪が殺される夢を見た」
「ふあっ!? なんだよそれ、なんだよそれ! いきなり変なこと言わないでくれよ! 怖いじゃないか!」
「いや、でも、本当、まじで見たんだよ。日付は今日で、時刻は七時十五分。雪、最期まで冗談言ってさ『大好きだよ』とかなんとか言い出すんだぜ? 笑えねぇっつの……」
「いや、もう止めて、怖いから、それ怖い。本当に殺されたらどうしてくれるんだよ」
「いやいや、流石にそりゃ――」
無ぇだろ。
と、その言葉は口に出せなかった。
なにか、嫌な予感がした。
「はぁ……下らね。行こうぜ」
「う、うん……え? 着いて来るのかい?」
「ん、ああ。そ、そりゃあな、女一人で帰らせるわけにもいかないだろ?」
「ふぅん。……珍しい」
「なんか言ったか?」
「いや、別に」
適当に支度を済ませ、家を出る。
先と同じく雪は降り積もっていて、しかし、先と違って紅く染まってはいなかった。
閑散とした住宅街。
雪を踏みしめる音が空に消える。
鎮痛な表情を浮かべる雪。
怯えているのだろうか。
死亡宣告なんてするもんじゃないな。
ざっ、ざっ、と駆け寄って来る音が聞こえた。
雪に少し前を歩かせ、僕は後ろをチラチラと確認しながら歩を進める。
男か、女か、深く被ったフードに顔が隠れ特定出来ない。
ランニングをしているのだろう。
夢の内容と同じだった。
十メートル、五メートル、三メートル。
神社の目の前。
何食わぬ顔で横を通るランナー。
雪の真横。
銀色に輝くなにかをポケットから取り出したのが見えた。
瞬間――手を蹴り上げた。
ナイフが雪道に突き刺さる音。
間抜けな声を上げる雪。
音は闇に溶け、再び訪れる静寂。
逃げようとした通り魔の足を引っ掛け、倒れたところを足蹴にする。
「お前、なにしてんの?」
自分でも驚く程の低い声が出た。
無性に苛々する。
なんでこいつは雪を殺そうとした?
「…………」
「はっ、だんまりかよ」
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