不機嫌な雪

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 予め持っていた紙紐を取り出し、通り魔を縛りつける。  警察に電話してその場を去った。 「ね、ねぇ……」  おずおずと、雪が口を開く。 「ん? なに?」 「あれ、なんで分かったんだい?」 「……夢で見た」 「夢って……さっき言ってた?」 「そう」 「それ、いつ見たんだい?」 「いつって……さっきだろ」 「いやいや、さっきって……君ずっと私と喋ってたじゃないか」  確かにそうなんだが……夢以外あり得ないだろ。 「一瞬寝てたんだろ、多分」  僕の返事に渋々納得する雪。  実際、それ以外ないのだから、そうであるとしか言えないし。 「じゃあ、また明日ね」 「ああ」  何事もなく雪の家まで辿り着いた。  本当に何事もなかった。  何事かがあったのはその日の夜だった。  八時半過ぎ。  このときにはもう安心しきっていた。  無事に家まで送り届けたし、通り魔も捕まえたし。  唐突に鳴りだす携帯。  唐突じゃないときがあるのかは知らないが。  冬木雪、とその名前を見てすぐさま電話に出た。 「雪っ?」 「はは……私、死んだかも」  掠れた声。  動悸がする。 「なんだよ、なにがあった? 救急車は呼んだのかっ?」  立ち上がり、家を飛び出す。  雪の家まで十分程度。 「う……ん。なんか、前触れもなしに本棚が倒れ、てきて……」 「そ、それならっ、まだ間に合うだろ!」 「いや、それが……ふふっ、は――」  咳き込む音が通話口の向こうから届く。  なんだよ……なにが起こってんだよ! 「大丈夫かっ!?」 「大丈夫、じゃ……ない、かな。は、鋏がさ、心臓に――突き刺さってるんだよね」 「……はぁ?」 「本棚に鋏が置いてあったみたいでさ、本棚に押されてぐさっと。笑っちゃうよね……本当、なんで……生きてるのか、不思議でしょうがないよ。ていうか、も、無理そうだけれど……」 「止めろよっ! 無理とか……本当、そういうの、要らねぇからっ!」 「ふふっ、ああ、そうだ、晴――大好きだよ」 「止めろ……止めろって! なんだよ、なんなんだよっ」 「じゃ、また、ね」 「おい! 雪っ! 雪っ!?」  駆けた。  必死に駆けた。  どこからか救急車の音が聞こえた気がした。   ****  ベッドの上。  雪の舞う外の景色が瞳に映る。
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