不機嫌な雪

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「――ろそろ帰るよ……もう終わっちゃったし。お腹空いたし」  その声で意識が覚醒した。 「雪……」  また夢だった。  そんなことはない。  間違いなく死んだのだ。  雪は二度、死んだ。 「ループ……」  いや、タイムリープか?  どうでもいいか……そんなことよりどうするか。  このチャンスがいつなくなるのかわからない以上、僕は雪が死なないように尽力しなければならない。 「ん……? どうしたんだい?」 「雪が死ぬ夢を見た。二回も」 「ふあっ!? なんだよそれ、なんだよそれ! いきなり変なこと言うなよ、怖いじゃないか!」 「ていうか、多分……夢じゃない」 「もっと嫌だよ!」  むっとした表情で僕を睨む雪。  しかし、この未来は起こるのだ。 「なあ……」 「なんだい?」 「タイムリープしてるって言ったら、信じるか?」 「信じる」 「……そうか。――え?」 「それは、信じて欲しい奴の台詞だろう? 君が信じて欲しいのなら、私は信じるよ」  平然となんでもないことのように、そう言った。  自分が死ぬなんて信じたくないことに決まっているのに。 「……なあ、今日は家に泊まれよ」 「え? どうしてだい?」 「死ぬからだよ」 「それなら、自分の家に篭っていればいいんじゃないのかい?」 「前々回は通り魔に刺されて死んだ。前回は通り魔を蹴り倒して、無事に家まで送っていったら本棚が倒れてきて死んだ。今日も、家に誰もいないんだろ? 泊まってけ」  僕の言葉に雪は唸る。 「いや、でも、は――えっと、彼氏いるし私」 「いや、もう振られただろ」 「あ、えっと、そうだけれど」 「いいから、泊まってけ」 「う……うん」  渋々納得した雪。  あまりいい顔ではなかった。   ****  夜、十一時過ぎ。  雪は唐突に僕のベッドから降りた。  ちなみに僕は雑魚寝である。 「ねえ、やっぱり私が下でいいよ」 「駄目だ。この位置は本棚がある」 「鋏はないじゃないか」 「鋏なんてなくても打ちどころが悪ければ即死だろ」 「う……なら、えっと、その、君もベッドで寝なよ」  紅潮した頬。  風呂上がりだからか、照れてるのかはよく分からなかった。 「流石に狭い。セクハラするかも知れない。そして、あれだ、喧嘩になって、なにかの拍子に死ぬんだ。止めてくれ」
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