不機嫌な雪

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「君が止めてくれ! 縁起でもないことを言わないでくれよ、本当……怖いんだからね」 「ん……ごめん」 「え?」 「なに?」 「晴が謝った! 初めてじゃないかい? 君が謝ることを知るときが来るなんて……」  え? 僕ってそんなキャラだったっけ?  僕だって謝るくらい普通に出来るんだけど。 「はぁ……寝るぞ」 「ああ、うん。ちょっとトイレ行ってくる」 「……気をつけろよ」 「はは……トイレ行くのにそんな心配されたの生まれて初めてだよ」  半ば呆れ気味に部屋を出て行く雪。  階段で転んで……とか。  ああ……くそ。  嫌な予感しかしない。  雪がトイレに行って二分が経った頃だろうか。  凄まじい爆発音が響いた。 「はっ!?」  慌てて立ち上がり、階段を駆け下りる。  トイレは一階。  一階は――火の海になっていた。 「なんだよこれ……うっ」  ガス臭い……放火?  通り魔を避けたら放火かよ……あり得ねぇ。  吹き飛んだ柱。  扉は壊れ、家がギシギシと悲鳴をあげる。 「雪っ! 雪っ!!」  階段の真ん中辺りまで火が押し寄せている。  が、自分が燃えるとかそんなことはどうでもよかった。  三回も幼馴染みの死を見るなんてことは避けたかった。  燃え盛る炎に突っ込み、トイレに向かう。  途中で火の中でのたうちまわる人影を見つけた。 「雪っ!」  熱いとか、火傷とか、そんな次元じゃない。  白く綺麗だった肌は爛れ、自慢の髪の毛は焼失。  ピクリと口元が動いた。  直後、魂が抜けたように雪の身体の重さが増した。   **** 「――ろ帰るよ……もう終わっちゃったし。お腹空いたし」  ベッドから飛び上がった。 「ど、どうしたんだいっ?」 「雪……」  後ろから抱きしめた。  くるりと振り向いた雪に突き飛ばされそうになったが、離さなかった。  数秒ジタバタともがき、雪はおとなしくなった。 「なにか……あったのかい?」  雪にとっては、きっと、僕は話している最中に抱きついてくる変人なのに、それなのに、理由を聞いてくる雪に心の中で感謝の気持ちを伝えた。 「……雪。雪が、三回、死んだ。僕は、どうすればいい……」 「……はい?」  当然の返答だった。
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