第1章

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 カウンセリングの直後だというのに、少し、憂鬱になった。  「あっ、来た来た。それじゃ、早速行くよ!」  「お、おい、ちょっと待ってくれよ。少し、休んでから……」  「なぁに、ジジ臭いこと言ってんの! ほら!」  そう言って突き出した手には、前日に用意しておいた鞄が握られていた。  「さ、行こ!」  「ちょ、ちょっと待て」  美木に手を引っ張られながら、僕は言った。  「時間は大丈夫なのか?」  時刻表をチェックしなければ、余計な時間を待つことになる。都会なら気にしなくてもいいだろうが、ここは田舎だ。  「走れば大丈夫!」  前を向いたまま、美木は叫んだ。  「走れば……か」  運動不足の身体には辛かった。しかも、手にふたり分の荷物を持っているとなれば、尚更だっただろう。  「はあ、はあ……」  「ふう……ふう……な、何で……」  「はあ……はあ……」  「ふう……はあ、こ、こんな苦労……し、しなきゃならない……?」  「お腹空いていた方が、ご飯だって美味しいでしょ! それと同じ!」  同じなのだろうか……?  「ほら、もうちょっとだから、頑張って!」  「だ、だったら……荷物、も、持ってくれ」  「あたし、レディーだもん!」  それが理由になるのかどうかは、定かでは無い。  僕はふと不安になった。尻ポケットに財布を入れているのだが、その底が割と浅いのだ。振動で、飛び出したりしないだろうか……?だが、口に出して、休みたい口実に思われるのも癪なので、そのまま走り続ける。  「あっ、ほら、もうすぐ!」  「あ、ああ……」  少なからずほっとした。冗談抜きで、身体が鈍っていた。  「あっ……!」  とうとう財布を落としてしまった。慣性の法則で吹っ飛んでいく。  「ちょ、ちょっと待て!」  僕は手を振りほどき、地面にしゃがみ込んだ。面倒なことに、小銭があたりに散らばっている。  「お兄ちゃん、早く!」  既に駅舎の陰に入っている美木が、そう叫んだ。お前が急かしたからだろうが……。  しばらくして、小銭をすべて拾い終わった。  「ふう……何とか間に合ったね」  座席に座り、美木は額を拭った。もう片方の手で、僕の膝小僧を意味もなくまさぐっている。  僕は大きく息をついた。  「一本くらい遅らせたって、良かったんじゃないのか?」  
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