第1章

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 (水着はあるかな? 水温は何度くらいだろう?)  何て楽しい考えが泡みたいに浮かび上がってきたのに、それがあっさりと押し潰された。  「駄目」  「ええ~?」  あたしは、思いっきり顔をしかめた。  「やれやれ、少し体調が良くなったと思ったら、そんな無茶を言う」  「無茶……かな?」  「小説も読めないような生活に戻りたいなら、私は止めないがね」  「む~……」  そんな風に言われたら、諦めるしかない。  二宮さんは慰めるように、  「お前さんは若い。そんなに急がなくても、これから先、泳ぐ機会などいくらでもあるだろう」  「確かに若いけど。でも、タイム、イズ、マネーだもん」  「だったらお前さん、大金持ちだ。だから、もっとゆっくり構えなさい」  「は~い……」  あんまり我がままを言っても仕方がなかった。  「それにしても、記憶は順調に蘇えってきているみたいだな」  「そうだね……」  目覚めた時は、自分という姿を全く描くことが出来なかった。今は、ラフ程度なら描くことが出来る。  「仲の良かった、男に人と女の人が居て……」  「お前さんは、もしかすると男の事を好いていて……」  「でも、たぶん、振られたらしくて……」  「趣味は、水泳……。もしかしたら、小説も好きだったかもしれない」  「それに、何より……」  あたしはにやっと笑った。  「男を魅了して止まない、この可愛さ」  二宮さんも、にやっと笑った。  「言うほど可愛いのなら、男に振られることも無かったんじゃないかね?」  「むぐ……痛いところを」  あたしは顔を手で覆った。と、その手をぱっと離す。  「うん、そうだ。きっと、何か事情があったんだよ」  「ほお、どんな?」  「なんつうの? ロミオとジュリエットみたいな、許されざる愛とか」  その言葉に、ふたりして笑った。  その後、お風呂の許可が出て、あたしは何日かぶりに、さっぱりすることが出来たのだった。  「うっわ~! 気っ持ちいい~!」  「そうだな……」  さんさんと降り注ぐ陽光に、浜辺は白っぽい姿をさらしていた。  「でも、どこが穴場なんだ?」  右にも左にもたくさんの海水浴客が居た。  「ここは違うよ。あたしが言ったのは、ここから少し離れた場所」  と言って、海岸線に沿って指を差した。  「すごい離れているのか?」
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