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「ううん、別に。ただね、途中がちょっと岩でごつごつしてて。それで普通は、そこで浜辺が終わりなんだって勘違いするの」
「なるほどな」
僕たちは、水着に着替えるために一旦別れた。
「おまたせ~」
「よし、じゃ、早速行くか」
さっき指差した方向に向かって歩く。と、後ろから手を引っ張られた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「ん? 何だ?」
訝しく思いながら振り返る。美木のことだから、すぐに移動したがるのかと思ったのだ。
「何だ、じゃ無いでしょ?」
「……だから、何」
「感想!」
「感想?」
すると美木は、妙なポーズを取った。モデル気取りのような。
「このあたしの水着姿を見て、何か言ってくれないの?」
「…………」
何かと言われても困ってしまう。
「まあ……可愛いんじゃないのか?」
無難な事を言ってみた。
「何か……気合いが入ってない」
「そんなこと言われてもな……」
「他には無いの?」
「他に……」
僕は首をひねった。
服装に対する感想、などというものに、僕は慣れていないのだ。
「例えば?」
「例えば……そうだねぇ……」
美木は視線を上に向けると、しばらく考えた。
「例えば……澄子お姉ちゃんよりセクシーだ……とかってのは、どう?」
僕は視線を戻すと、美木はにかっと笑った。
「お前な……」
自分でもぎこちないと思える笑みを、僕は浮かべた。
「澄子とお前を、比べたりなんかしないんだよ、俺は……」
「へえ、そうなの?」
美木は首を傾げた。
「あ、ああ……そうだよ」
僕の瞳を、じっと覗き込んできた。手を掴んでいるので、その距離は近い。
「それ、本当?」
耐えきれず、僕は視線を逸らした。その仕草の意味を読み取られてしまっただろうとは思いながら、ともかく僕は言った。
「ああ……本当だよ」
だがその言葉は、美木に届く以前に、さんざめく潮騒にかき消されたようだった。
「さ、行こう……」
背を、美木に向ける。
日差しはじりじりと熱いのに、何故か、背中がうそ寒かった。
美木が言ったような岩場を通り過ぎて、しばらく歩くと浜辺に出た。
「へえ……ほんとに人が居ないんだな」
「でしょ?」
美木はにこにこと楽しそうだ。してみると、さっきの会話は、美木にとっては格別の意味を持たなかったのかもしれない。
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