第1章

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 「ううん、別に。ただね、途中がちょっと岩でごつごつしてて。それで普通は、そこで浜辺が終わりなんだって勘違いするの」  「なるほどな」  僕たちは、水着に着替えるために一旦別れた。  「おまたせ~」  「よし、じゃ、早速行くか」  さっき指差した方向に向かって歩く。と、後ろから手を引っ張られた。  「ちょ、ちょっと待ってよ!」  「ん? 何だ?」  訝しく思いながら振り返る。美木のことだから、すぐに移動したがるのかと思ったのだ。  「何だ、じゃ無いでしょ?」  「……だから、何」  「感想!」  「感想?」  すると美木は、妙なポーズを取った。モデル気取りのような。  「このあたしの水着姿を見て、何か言ってくれないの?」  「…………」  何かと言われても困ってしまう。  「まあ……可愛いんじゃないのか?」  無難な事を言ってみた。  「何か……気合いが入ってない」  「そんなこと言われてもな……」  「他には無いの?」  「他に……」  僕は首をひねった。  服装に対する感想、などというものに、僕は慣れていないのだ。  「例えば?」  「例えば……そうだねぇ……」  美木は視線を上に向けると、しばらく考えた。  「例えば……澄子お姉ちゃんよりセクシーだ……とかってのは、どう?」  僕は視線を戻すと、美木はにかっと笑った。  「お前な……」  自分でもぎこちないと思える笑みを、僕は浮かべた。  「澄子とお前を、比べたりなんかしないんだよ、俺は……」  「へえ、そうなの?」  美木は首を傾げた。  「あ、ああ……そうだよ」  僕の瞳を、じっと覗き込んできた。手を掴んでいるので、その距離は近い。  「それ、本当?」  耐えきれず、僕は視線を逸らした。その仕草の意味を読み取られてしまっただろうとは思いながら、ともかく僕は言った。  「ああ……本当だよ」  だがその言葉は、美木に届く以前に、さんざめく潮騒にかき消されたようだった。  「さ、行こう……」  背を、美木に向ける。  日差しはじりじりと熱いのに、何故か、背中がうそ寒かった。  美木が言ったような岩場を通り過ぎて、しばらく歩くと浜辺に出た。  「へえ……ほんとに人が居ないんだな」  「でしょ?」  美木はにこにこと楽しそうだ。してみると、さっきの会話は、美木にとっては格別の意味を持たなかったのかもしれない。
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