第1章

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 「さてと、まずはこれを塗って……と」  美木はバッグからオイルを取り出した。  「お兄ちゃん、塗ってくれる?」  「……自分でやれよ」  「……けち」  『いいですよ~だ』などと言いながら、美木は手の平にオイルを垂らすと、それを全身に塗った。元々日焼けしているが、それでも気になるのだろうか?  「お兄ちゃんも塗る? あたしがやってあげるよ」  「……いや、いい」  「そう。じゃ、泳ごうよ!」  「ああ」  美木が海に向かって駆け出していく。その後を追うように、歩いていった。  「えいっ!」  ――バシャッ!  波の中に入った途端、海水が襲ってきた。やり返した方がいいのだろうか、などと考えていると、  「やあっ!」  第二陣がやって来た。  僕は顔をほころばせると、ごく自然に行動に移っていたのだった。  「やったな!」  ――バシャッ!  久しぶりに童心に帰った気分だった。  泳ぐ前から身体をびしょ濡れにして、ようやく僕たちは海水の中に身を横たえたのだった。  「気っ持ちいいねえ~!」  「そうだな。ちょうどいい水温だ」  「うん」  美木はうっとりと目を閉じた。  ゆったりと身体を伸ばし、水にその身をまかせている。  「なあ、美木。泳がないのか?」  水に身体を包み込まれる感覚に、水泳部時代の自分が思い出された。  美木は悪戯っぽく笑った。  「来てよかったでしょ? お兄ちゃん」  「ああ。そうだな」  「ん。素直な子」  美木は身体を起こすと、水平線に向かって指を差した。  「じゃ、あの小島まで競争しよ! それじゃ、よーい、どん!」  返事をする間も無く、美木は泳いでいってしまった。  美木があげる水煙をしばらく見守ってから、僕は泳ぎだした。まずあり得ないだろうが、万一ということもある。  僕に負けたりして、自信を失ったりしたらまずいだろう。だが、美木も手加減をしたのだろう。ふたりの間には、それほど距離が開かなかった。  「おーい! お~そ~い~!」  競争は一時中断らしい。僕も泳ぐのを止め、手を振り返す。  「競争はもういいから~! 一緒に泳ごうよ~!」  しきりに手招きしている。  水滴が陽光に輝き、美木はひどく可愛らしかった。  (僕は何を考えているんだ……?)  急に気恥ずかしくなり、僕は海の中に潜った。  そのまま数秒してから、海面に顔を出した。
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