第1章

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 「ぶっ!」  まるで待ちかまえていたように、小山ほどもある波が襲ってきた。顔が完全に洗われ、そして、景色が現れた。  「ふう~……」  やや沖の方に来ているというのに、かなり大きな波だった。  岸辺に目を遣ると、波は、その大きさを徐々に増しながら走っている。  「え……?」  振り返り、僕は目を疑った。  美木が居ない。  辺りに遮る物なんて何も無い。  さっきの僕のように、海の中に潜っているのだろうか? そう考え、しばらく待ってみたが、姿を現そうとしない。  「美木! 妙な冗談はよせよ!」  そう叫ぶと、返事は返ってこない。  やけに静かな水面。  目には見えない程度の波が、定期的に身体を持ち上げる。不安と焦燥が、喉元までせり上がってきた。  「美木!!」  ふたつの感情に押し出された声は、妙に甲高いものだった。  「み――」  声が、凍り付いた。  水面に、ちらっと、美木のリボンが覗いたような気がしたのだ。  現役時代にも経験をしたことの無いスピードで、そちらに泳いで行く。  「美木……」  気を失いそうな程の安堵に襲われた。  海草のように漂っている美木を、そこに見つけることが出来た。  腋の下に手を差し込んで、顔が水に浸からないようにする。水を顔からしず滴らせた美木は、固く目をつむっていた。  「美木……?」  呼びかけてみるが、何の反応も無い。意識が無いらしかった。  美木を腋に抱えると、出来る限りのスピードで、浜に向かって泳いでいった。  「美木……」  頬を叩いてみる。  この期の及んで、まだ、冗談だったらいいという願望があった。  「美木……実は、俺は、余命いくばくも無い身体でな」  そんな事を言ってみるが、美木の表情はぴくりとも動かなかった。  ――冗談じゃ無い。  胸に耳を寄せる。  鼓動が聞こえてきた。  心臓は動いている事に、ひとまず安心した。  口元に指先を持っていく。  空気の流れは感じられなかった。  呼吸が止まっているのだ。  水泳部に通っていた頃に、人工呼吸の方法なら覚えていた。  僕は美木を救うため、その方法を思い出しながら、急いで処置を施した。  ………………。  …………。  ……。  「うっ! ごほっ! ごほっ!」  ようやく、水を吐き出してくれた。  「え……?」  ゆっくりと瞼を開き、夢見るような目を向けてきた。
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