第1章

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 「どうしたの……? 聡人…………お兄ちゃん」  美木に奴、混乱しているらしい。  僕は、その頬を軽く叩いた。  「だ丈夫か?」  「え……?」  「お前、溺れたんだぞ」  「溺れて……?」  「そう」  「…………そうだったんだ……」  「身体はどうだ? 辛いか?」  「ううん……」  「それじゃ、ともかく医者に見せに行くぞ。油断は出来ないからな」  「分かった……」  やや足下がおぼつかないが、美木は起きあがった。  「あ、ちょっと待って」  歩きかけた僕を、美木は呼び止めた。  「お兄ちゃん……もしかして、人工呼吸した?」  「あ? ……まあ、そうだけど。呼吸がとまっていたからな」  「……エッチ」  僕をからかうようにそう言うと、美木はぷいっとそっぽを向いた。  「い、いや……エ、エッチって……仕方ないだろう。人命がかかっているんだ」  僕はへどもどと言い訳をした。いや、言い訳では無い。本当のことだ。  「ま、いいけど」  美木は僕を置いてさっさと歩き出した。その背中をしばらく呆然と見つめてから、慌てて追いかけたのだった。  海の家に人に尋ねると、歩いていける距離に、小さな診療所があるとのことだった。  僕たちは手早く着替えると、描いてもらった地図を頼りに、そこに向かったのだった。  ………………。  …………。  ……。  老医師に診てもらったところ、幸いなことに、何の異常も無いとのことだった。  僕たちは浜辺に座り、美木が持参していた弁当で遅い昼食を取った。泳ぐ気には到底なれなかった。  「しかし……美木が溺れるなんてな。猿も木から落ちるのか」  「……あたしは猿じゃ無いよ……」  そう言って、弱々しく微笑んだ。  「いったいどうしたんだ? 冗談抜きで、ちょっと信じられない」  美木のスイマーとしての実力から言えば、まずあり得ない事態だろう。  「うん……あたしね……」  美木は唐揚げを口に放り込むと、微かに頷いた。  「その……ね。足がつっちゃって。……それに、耳の中に水が入ってきて……」  「ああ……あの波か」  耳に水が入ると、三半規管にまでそれが達することがある。すると方向感覚が全く失われ、上も下もわからなくなってしまうのだ。溺死に直結する、危険な状態と言えた。  「まあ……助かったんだから、良かった」  僕は、ツナサンドにかじりついた。
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