第1章

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 ――それは、澄子の態度ではないのか?  一言で言えば、澄子は他の男など眼中に無かった。まだ丘先学園に通っていた頃、水泳部の連中から、何度と無く告白されたという。  マネージャーとは、部員にとっては特に美人に映るものなのだろうか?違う。澄子hじゃ実際にそうなのだ。  同じクラスからも違うクラスからも、恋人を志願する男は現れた。澄子は全て断った。  澄子にとっては、男ども恋愛感情の表白は、路傍の石ほどの価値の無かったらしい。時には、冷淡とすら思える態度で、それらを蹴り弾いていったのだ。  彼女の視界に中心には、常に僕が居た。僕だけを見ていた。そんな状況にあって、増長したのも無理からぬ事だ――片方の声がそう囁く。だが一方では、僕を指弾する声がある。そして僕は、後者が正しいと思う。正しくなければならないのだ。  「あ……」  つま先の虜だった小石が、どこかへ飛んでいってしまった。  「ふう……」  深い吐息が漏れた。  部屋に戻るとすぐに、美木がやって来た。  「ちょうど良かった。お前に言うことがあったんだ」  「あたしが先でいい? あたしも、用があって来たんだよ」  「ああ、まあいいけど」  「うん」  美木はすたすたと歩いてくると、僕のお腹の辺りをくすぐった。  ――癖。  「あのね――」  「あ、ちょっと待った」  手で押しとどめると、美木は不思議そうな顔をした。  「ん?」  「お前な……」  僕は、まだお腹をまさぐっている手を掴もうとした。  「あ――」  「…………?」  僕はそっと手首を掴んだ。ガラス細工を扱うように、そっと。何故か、無造作に力を込める事がためらわれたのだ。  「どうか……した?」  美木は訝しげに、手元に視線を落としている。  「いや……」  同じように視線を落とす。美木の手首は、とても細かった。  「いや……」  もう一度呟き、僕は手を離した。やって来た時と同じように、違和感は唐突に去っていった。  「…………」  美木は、何かを探るように目つきで、僕の瞳を凝視している。僕は空咳をして言った。  「だからな、その癖だよ」  「え?」  「この際だから言っておくけど。あんまり、人の身体に触っちゃだめだろ」  「え? 何で?」  美木は細めていた目を、一転して見開いた。  「何でって……」  澄子が嫌がるからだ、などとは言えない。
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