第1章

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 「夢とは……脳とは、それほど広いのではないだろうか……?」  夢をひもとけば、何かが見えてくるというのは、幻想に過ぎないのだろうか?  「あ、それから……」  「うん?」  「…………」  迷いが生じた。  澄子と愛し合うことができないこと。言ってしまって、いいのだろうか? ただのカウンセラーが相手なら、僕は口にしただろう。だが、目の前に居るのは、ただのカウンセラーでは無い。溝口さんなのだ。  溝口さん相手には、言えないと思った。  「いえ……何でもないです」  「そうか」  溝口さんは、決して聞き出そうとはしない。それからまた、美木に関する心情の吐露が続いた。そして、面接時間が終了した。  「ありがとうございました」  「はい。それでは、また来週」  挨拶を交わし、僕は部屋を出た。  クーラーの効いた病院から出ると、日差しが一層強く感じられた。あるいは、一時間の面接の間に、日が強くなったのかもしれない。  周囲を圧するように建っている病院を振り仰ぐ。  もやもやはかなり減ったが、それでもまだ、心の中に巣くっている。  僕はため息をつくと、家路についた。  溝口さんに相談できない事があった。  澄子のこと。  溝口さんが、かつて澄子に恋していたことを、僕は知っている。その溝口さんに、あまり生臭い話をするのは、さすがに憚られた。それを考えると、溝口さんは、僕のカウンセラーとしては、あまり適任では無いのかもしれない。が、充分なラポール――信頼関係――が、ふたりの間にはある――僕hじゃ、そう信じている。それを蹴ってまで、他のカウンセラーを探すのは嫌だった。澄子について以外なら、何でも口にすることが出来るのだ。  (当然、溝口さんは気が付いているのだろうな……)  カウンセラーは、漫然と話を聞いている訳ではもちろん無い。  澄子の話題が有意に少ないことに、溝口さんは気が付いているはずだった。  (そんな僕を、彼はどう思っているのだろう……)  もしかして、自分が嫉妬の対象になっているのかもしれないと考えるのは、苦痛だった。僕は溝口さんが好きなのだ。  (嫉妬と言えば……)  澄子は、カウンセリングを厭うていた。それも、例によって嫉妬だった。  男の友人/知人でさえ、僕の視野に入るのを嫌がるのだ。  僕の全感情は、たぶん、澄子に振り向けられなければならないのだろう。
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