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闇雲に走り回り、何とか男達を撒いた。
逃げ込んだ狭い路地裏でハァ、と息をつく。
「…あ、ありがと…っ」
幸子はゼイゼイと胸を押さえて言った。
「いや…」
言いながらグイッと口元を拭う。
殴られた拍子に端が切れ、血の味がした。
「だ、大丈夫…?」
幸子は眉を下げ、泣きそうな顔で言った。
「ん…? うん、大丈夫。こんなのかすり傷だし」
へへっと笑うと彼女は幾らか安心して微笑んだ。
(…つか)
「…先生、何でこんなとこにいんの?」
(同窓会のはずじゃあ…)
ポカンとする檜に対し、幸子は取り繕う様に言った。
「あ。秋月くんにご飯…作ってあげようと思って」
確かに以前学校でそんな約束をした。
だけど何でまた今日? と一瞬唖然とするが、別な疑問が浮かんだ。
「…何で俺がここにいるって」
彼女を見つめ、眉をひそめると、幸子はためらいがちに口を開いた。
「秋月くんがバイトしてるの…。知ってたから」
「…。マジ?」
「…うん」
(うわ…、何だそれ)
とっくにバレてた事が恥ずかしくて、檜は口元に手を当てた。
「だせ…」
イマイチ決まらない自分が可笑しくて急に笑いが込み上げてくる。
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