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チラリと教卓を見やると黒のバインダーを手に、幸子が教室を出て行く所だった。
「ヒノキ…!」
体良く断ろうと考えていると不意に名を呼ばれた。
声のした方へ振り返る。
すると教室の後方戸口に慣れ親しんだ姿があった。
「カイ!」
檜のいとこのカイ・ウォルターだ。
諸事情により彼は数年前、檜の家へ養子として引き取られた為、姓は同じく‘秋月’だ。
(ちょうど良いところに…)
檜はニヤリと笑い奈々に向き直った。
「…悪い、ナナ。今日はメンバーと約束あんだわ。だからまた今度、な?」
檜の柔和な笑顔に、奈々は眉を下げてはにかんだ。
「分かった…カイくん達となら仕方ないね?」
「悪い…」
「ううん」
そう言って頭を振ると、奈々はクラスメートの元へと駆けた。
奈々の小さな背中を見送り、檜は戸口へと向かった。
「悪いな、カイ。助かった」
「助かった? …困ってたのか?」
「まぁ…。ちょっとな?」
親指と人差し指で‘ちょっと’という仕草をすると檜は目を細めて笑った。
鳶色の髪から覗く青い瞳で、カイは不思議そうに「ふうん」と呟いた。
「…それはそうとさ?」
明るい口調でカイが話を切り出す。
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