1.偶然

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チラリと教卓を見やると黒のバインダーを手に、幸子が教室を出て行く所だった。 「ヒノキ…!」 体良く断ろうと考えていると不意に名を呼ばれた。 声のした方へ振り返る。 すると教室の後方戸口に慣れ親しんだ姿があった。 「カイ!」 檜のいとこのカイ・ウォルターだ。 諸事情により彼は数年前、檜の家へ養子として引き取られた為、姓は同じく‘秋月’だ。 (ちょうど良いところに…) 檜はニヤリと笑い奈々に向き直った。 「…悪い、ナナ。今日はメンバーと約束あんだわ。だからまた今度、な?」 檜の柔和な笑顔に、奈々は眉を下げてはにかんだ。 「分かった…カイくん達となら仕方ないね?」 「悪い…」 「ううん」 そう言って頭を振ると、奈々はクラスメートの元へと駆けた。 奈々の小さな背中を見送り、檜は戸口へと向かった。 「悪いな、カイ。助かった」 「助かった? …困ってたのか?」 「まぁ…。ちょっとな?」 親指と人差し指で‘ちょっと’という仕草をすると檜は目を細めて笑った。 鳶色(とびいろ)の髪から覗く青い瞳で、カイは不思議そうに「ふうん」と呟いた。 「…それはそうとさ?」 明るい口調でカイが話を切り出す。
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