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その時、何となく刺すような視線を感じた。
檜は何の躊躇いもなくそちらに目を向ける。
数人の男子が他愛もない会話をしており、そこに内田の姿もあった。
(やっぱ早めに何とかした方がいいよなぁ…)
檜は思った。
自分が撒いた種とは言え、男の見苦しい嫉妬に巻き込まれるのは御免だ。
やれやれと肩をすくめ席につく。
ガラガラと扉が開いた。
「はーい、みんな席についてー」
授業に使う教科書と出席簿を手に、幸子が教卓についた。
1時間目は英語のリーダー。
新学期が始まり、今日が二回目の授業だ。
出席簿を開き、順に名前を呼ぶ幸子をジッと見つめる。
‘…奈々のポストにその先生を充てるつもりだろ?’
不意に今朝カイに言われた言葉が頭に浮かんだ。
(…違う)
檜は難なくその言葉を否定していた。
奈々のポストと言うならただヤるだけの関係だ。
そんな野獣じみた感情じゃなくてもっとシンプル。
単に興味があった。
年上女性に対する一時的な好奇心かもしれないが、先生に近付きたい、話がしたいという想いは、歌を歌う前の高揚感に似ている。
ただその感情が奈々のものとどう違うのか説明出来なくて、カイには適当に誤魔化した。
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