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いつもカイには何でも話すが、先生については今はまだ何も言えない。
檜は閉じた教科書に肘を置き、頬杖をついた。
何気なく斜め後ろを振り返ると、奈々の視線とぶつかった。
恥ずかしそうにはにかむ奈々を見て口元を緩める。
「…それじゃあ教科書の10ページ、頭から。今日は11日なので出席番号11番、21番、31番、1番の順で当てていくわね?」
授業を始める幸子を余所に、檜はぼんやりと窓の外を眺めた。
春らしい陽気が妙に心地良く、思わず瞼が下がる。
――去年の夏、奈々と関係を持つ様になった。
奈々に告白をされ、誰とも付き合うつもりは無いと軽く断ったのだが、奈々はそれで退かなかった。
『奈々ね…。経験無いんだよね』
放課後の教室。
風になびくカーテンを背に、奈々がポツリと呟いた。
『最近友達の会話にもついていけないし…秋月くんさえ良ければ…。奈々としない?』
アヒル口で笑うピンク色の唇が印象的だった。
小悪魔の誘惑に心が揺れ、結果、一度きりという約束で奈々を受け入れた。
しかしどういう訳かその行為が今もズルズルと続いている。
「はい…じゃあ次の段落を…。秋月くん」
出席簿を確認し、幸子が窓際に目を向ける。
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