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「先生、秋月くんは帰国子女ですよ~?」
女子から声があがった。
「帰国子女…? え、そうなの…?? 秋月くん」
意外な言葉に、幸子は見開いた目で檜を見る。
「…まぁ、一応」
言いながら教科書に目を落とした。
今まで幾度も見てきた反応だ。
‘どの国にいたの?’
‘いつまでいたの?’
いつもなら続けざまにそう訊かれてきた。
檜はその質問が返ってくるのを今か今かと待つ。
しかしながら幸子はそれじゃあ、と引き続き授業を始め、彼から目を逸らした。
(あれ…?)
思わず首を捻った。
(英語教師なら食いついてもいいネタなのに…)
文法を板書しながら、その説明をする幸子に目を向ける。
(…ちょっとは興味もてよなぁ)
面白くないと言わんばかりに、ため息だけがもれた。
*
午前授業が終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴る。
クラスの男子と学食でお昼を済ませ、個別に外の自販機へと立ち寄った。
ビー…。
音を立てて出てきた紙パックのコーヒーにストローを刺した所で、ふと手が止まる。
(あれ…? 先生だ)
男子生徒に呼び止められたのか、一階の渡り廊下に幸子がいた。
話をしている生徒はどうやら3年生らしい。
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