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カイからの着信だった。
ここに来る前、後で教室に寄るからと言っておいた。
すっかり忘れていた。
「…電話?」
振動音が長い事から、幸子にそう訊ねられた。
檜は首を振りメールだよ、と嘘をつく。
何となく今のこの空気を壊したくなかった。
(カイには悪いけど…)
檜は再び携帯をポケットに戻す。
そして幸子に向き直った。
「先生って。あんまり先生らしくないよね?」
「え?」
幸子は顔を上げ、聞き捨てならないと言いたげに眉をひそめた。
「先生って言うよりもっと、身近に感じる。…若いからかな?」
言いながら口元をほころばせクシャリと笑う。
「…」
幸子は檜の言葉ひとつひとつを噛み砕く様に考えてから、困った風に首を傾げた。
「それとえくぼ。…俺は良いと思うよ?」
可愛くて…。
続けてそう言おうとしたけれど、止めておいた。
先程、男子生徒にした様に、大人な女の、適当な答えが返って来ると思ったからだ。
「…あ。ありがとう」
幸子は恥ずかしそうに俯く。
その表情を見て何だか面はゆく感じられた。
自分は一体何がしたいんだろう、と。
馬鹿馬鹿しくも問い掛けたくなった。
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