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「…いたいた、ヒノキ!」
不意に名前を呼ばれた。
声で分かる。
カイだ。
校舎から渡り廊下に出る扉を開け、カイが顔を覗かせた。
彼は檜と話をしている幸子に、サッと視線を移す。
おう、と手を上げ悪びれもなく笑う檜を見て、ハァ、とため息をついた。
「全然来ないから…」
「悪い悪い」
近付いて来るカイの姿を見つめ、幸子は「あ」と目を見開いた。
若干、驚いた顔をしている。
無理もない。
サラサラの前髪から主張する青の瞳は、外国人そのものだ。
檜の母親の妹、彼にとっては伯母にあたるその人がカイの母親だ。
つまりは母親がハーフで、父親がイギリス人。
カイは檜と違ってずっと英国の血が濃い。
幸子と目が合い、カイはぺこりと会釈する。
ハッとして幸子も会釈を返した。
「それじゃあ先生、またね?」
笑って言うと、檜は彼女に背を向けようとした。
秋月くん、と声が追い掛けてくる。
「英語。期待してるからね? 頑張って…?」
社交辞令の口振りで言うと、幸子はクルリと背を向け、檜と反対方向へ歩き出した。
その後ろ姿を見て思う。
やっぱり先生なんだな、と。
そして、年上なのだ。
歩き出すカイに続き、檜は教室へと戻った。
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