573人が本棚に入れています
本棚に追加
*
その日の放課後、帰り支度をする奈々に後方から声がかかる。
「…ナナ」
長い髪を揺らし振り返ると、そこにはクラスメートである内田の姿があった。
6時間目が終わり、最早教室にはまばらにしか人がいない。
「なぁに…?」
奈々は愛嬌たっぷりに小首を傾げる。
「今日みんなで帰りにカラオケ行こうって言ってるんだけどさ、ナナも来ないか?」
「…みんな?」
「ほら、瀬尾や石川もさ。ナナ、仲良いだろ?」
奈々の視線に、内田は取り繕う様に慌てた。
奈々はチラリと目線だけで窓際の席を見やる。
空席になった彼の机。
「…それ、檜は来ないでしょ?」
「ああ、さっき声掛けたんだけど用事があるとかで断られた」
「そう…」
少し考える素振りを見せると、奈々は口角を上げ、にっこりと微笑んだ。
「奈々も行かない。用事があるの」
「え…」
ごめんね? と付け足し、奈々はクルリと背を向けた。
その場に取り残された内田は残念そうに顔をしかめ、チ、と舌打ちをもらした。
最初のコメントを投稿しよう!