21.相愛

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「ハハ…っ! カッコわりって、…っいてっ!」 笑うと切れた口元に響いた。 「はぁ…。マジだせぇ」 檜は情けなくて頭を掻いた。 彼のそんな仕草を見て、幸子は唇を震わせ今にも泣き出しそうになる。 「…もう、やだよ…っ」 「え…?」 ツイと目を上げると、幸子は口をへの字に曲げ、やがてポロポロと涙を零した。 「え?? え、先生?? なに、何で…??」 突然泣き出す彼女に、思わず狼狽える。 「もうやだよっ、我慢するの…っ!」 「え? な、何が??」 彼女の言動にハテナを感じ、まさかまた酔ってんのか、と思い至る。 「先生、もしかしてまた」 言い終わらぬ内にトン、と小さく体が揺れ、頭の中が真っ白になった。 花の様な香りが鼻腔をくすぐる。 現状を理解するまでに数秒かかった。 「え…?」 檜は幸子の頭を見下ろし、そう呟いた。 彼女の柔らかな感触に、ドキドキと心拍数が上がってくる。 「…すき」 「え…」 「秋月くんが好き…っ!」 檜の背に腕を回し、幸子はそう言った。 一瞬。これは夢か、と馬鹿な事を考えた。 (夢なら…) 早く覚めろ…。 檜は目を伏せ、幸子を抱きしめた。
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