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「そんなに欲しいの? そのギター」
‘waltz’で練習を終えた帰り道。
隣に並んだカイが何気なしに問い掛けた。
「うん…だって限定もんだぜ? 音質も今のよりずっと良いみたいだし」
「まぁ高いからそれなりに良いんだろうけど…。今使ってるレスポール、別に壊れてないじゃん」
「そりゃあそうだけど…」
徐々に暮れゆく茜空を見つめ、檜は肩に掛けたギターのソフトケースをぐっと握り締めた。
「欲しい物挙げたらキリがないよ? 前にも何か欲しいって言ってなかったっけ?」
「…ああ、ティアドロップ? あと服と靴とピアスと」
「物欲多すぎ」
指折り数える檜を見て苦笑する。
「そう言えばさ、最近あの先生の話しなくなったけど…もう飽きた…?」
カイがふと浮かんだ疑問を口にした。
5月半ばを過ぎ、6月を目前とした季節。
あれから1ヶ月以上も過ぎていた。
「飽きたってお前…」
言いかけた所でポケットに入れた携帯がブルブルと震えた。
「なに? メール?」
ちょうど赤信号に変わった交差点で足を止め、パチンと携帯を開いた。
「うん…母さんから」
「…? 美麗(ミレイ)さん何て?」
ディスプレイに目を留めたままボンヤリする檜を見て、
「…もしかしてまた?」
とカイが苦笑した。
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