3.物欲

4/14
前へ
/330ページ
次へ
 * 「そんなに欲しいの? そのギター」 ‘waltz’で練習を終えた帰り道。 隣に並んだカイが何気なしに問い掛けた。 「うん…だって限定もんだぜ? 音質も今のよりずっと良いみたいだし」 「まぁ高いからそれなりに良いんだろうけど…。今使ってるレスポール、別に壊れてないじゃん」 「そりゃあそうだけど…」 徐々に暮れゆく茜空を見つめ、檜は肩に掛けたギターのソフトケースをぐっと握り締めた。 「欲しい物挙げたらキリがないよ? 前にも何か欲しいって言ってなかったっけ?」 「…ああ、ティアドロップ? あと服と靴とピアスと」 「物欲多すぎ」 指折り数える檜を見て苦笑する。 「そう言えばさ、最近あの先生の話しなくなったけど…もう飽きた…?」 カイがふと浮かんだ疑問を口にした。 5月半ばを過ぎ、6月を目前とした季節。 あれから1ヶ月以上も過ぎていた。 「飽きたってお前…」 言いかけた所でポケットに入れた携帯がブルブルと震えた。 「なに? メール?」 ちょうど赤信号に変わった交差点で足を止め、パチンと携帯を開いた。 「うん…母さんから」 「…? 美麗(ミレイ)さん何て?」 ディスプレイに目を留めたままボンヤリする檜を見て、 「…もしかしてまた?」 とカイが苦笑した。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

573人が本棚に入れています
本棚に追加