3.物欲

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「悪い、カイ。これ買って先帰ってて?」 「あ、おい、ヒノキ!」 手に持った買い物かごを押し付けると、カイの返事も待たずに背を向けた。 「セ~ンセ…!」 真っ直ぐ目的物へと突き進み、幸子の左耳へと呼びかける。 商品棚のスパイスに落とした目を上げ、幸子は髪を揺らした。 「あら…、秋月くん」 幸子と視線がぶつかり片手を挙げる。 「今日土曜だけど…。もしかして今学校帰り?」 「そうよ~? 教師も忙しいんだから。この間の中間テストの採点なんかでね?」 手に持ったスパイスを買い物かごに入れ、幸子は肩をすくめて微笑んだ。 ほころばせた口元に出来た小さなえくぼ。 白い鎖骨にかかる控え目なネックレス。 アイボリーのワンピース。 カートの取っ手に触れる白い指先…。 檜は順に目で追っていく。 無言になる檜を見て、秋月くん? と、幸子は首を傾げた。 「あ、いや。…つか、先生なに買ったの?」 ヒョイとかごの中身を覗き込むと、 「え、ちょっと…やだ」 と幸子が慌てて手で隠そうとする。 「何で?」 「何で…って。食生活知られるの、何か恥ずかしいじゃない」 そう言ってカートの前に立ち壁を作る。
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