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「悪い、カイ。これ買って先帰ってて?」
「あ、おい、ヒノキ!」
手に持った買い物かごを押し付けると、カイの返事も待たずに背を向けた。
「セ~ンセ…!」
真っ直ぐ目的物へと突き進み、幸子の左耳へと呼びかける。
商品棚のスパイスに落とした目を上げ、幸子は髪を揺らした。
「あら…、秋月くん」
幸子と視線がぶつかり片手を挙げる。
「今日土曜だけど…。もしかして今学校帰り?」
「そうよ~? 教師も忙しいんだから。この間の中間テストの採点なんかでね?」
手に持ったスパイスを買い物かごに入れ、幸子は肩をすくめて微笑んだ。
ほころばせた口元に出来た小さなえくぼ。
白い鎖骨にかかる控え目なネックレス。
アイボリーのワンピース。
カートの取っ手に触れる白い指先…。
檜は順に目で追っていく。
無言になる檜を見て、秋月くん? と、幸子は首を傾げた。
「あ、いや。…つか、先生なに買ったの?」
ヒョイとかごの中身を覗き込むと、
「え、ちょっと…やだ」
と幸子が慌てて手で隠そうとする。
「何で?」
「何で…って。食生活知られるの、何か恥ずかしいじゃない」
そう言ってカートの前に立ち壁を作る。
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