3.物欲

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幸子を追い掛けたい衝動に駆られたが、ここで直ぐに帰ると不自然か、と檜は作り笑いで答えた。 「新しいエレキって良いもんだと高いんじゃねぇの?」 「そうなんだよな、でもどうせなら良いもんが欲しいし」 「だよな~…あ! 悪い、着信」 言いながら内田が制服のポケットに手を入れる。 「あ…、じゃあ俺そろそろ帰るから。またな?」 「おう」 背中に内田らの声を受け、檜はレジに向かって歩き出した。 (先生…もう帰っちゃったかな?) レジで清算する客の間を縫い、キョロキョロと周りを見渡す。 (あ…) 離れた所に幸子の後ろ姿が見えた。 台の上にかごを乗せ、買い物袋へ食材を入れている。 近付いて声を掛けようか、と思ったがそこで思いとどまった。 (あんまりいくとしつこい、か…) 中途半端に挙げた手をぶらりと下ろす。 メールが届いたのか、幸子が鞄を開け、携帯を取り出す。 小柄な彼女を見つめながら、ふと身長差はどの位だろう? などと考えてみた。 向かい合って立つと先生の頭がこのぐらいだから…、と手を水平に、肩の位置で止める。 (30cm差、ぐらい? ちっさいよな~…) 再度、横顔に目をやり頬を緩ませると、檜はくるりと背を向けた。
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