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幸子を追い掛けたい衝動に駆られたが、ここで直ぐに帰ると不自然か、と檜は作り笑いで答えた。
「新しいエレキって良いもんだと高いんじゃねぇの?」
「そうなんだよな、でもどうせなら良いもんが欲しいし」
「だよな~…あ! 悪い、着信」
言いながら内田が制服のポケットに手を入れる。
「あ…、じゃあ俺そろそろ帰るから。またな?」
「おう」
背中に内田らの声を受け、檜はレジに向かって歩き出した。
(先生…もう帰っちゃったかな?)
レジで清算する客の間を縫い、キョロキョロと周りを見渡す。
(あ…)
離れた所に幸子の後ろ姿が見えた。
台の上にかごを乗せ、買い物袋へ食材を入れている。
近付いて声を掛けようか、と思ったがそこで思いとどまった。
(あんまりいくとしつこい、か…)
中途半端に挙げた手をぶらりと下ろす。
メールが届いたのか、幸子が鞄を開け、携帯を取り出す。
小柄な彼女を見つめながら、ふと身長差はどの位だろう? などと考えてみた。
向かい合って立つと先生の頭がこのぐらいだから…、と手を水平に、肩の位置で止める。
(30cm差、ぐらい? ちっさいよな~…)
再度、横顔に目をやり頬を緩ませると、檜はくるりと背を向けた。
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