YA DO RI GI

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父に捨てられた時、母は全て嫌になって、死んでしまおうかと悩んだらしい。 思い留まったのは私がいたせいだ。 私がいなければ、母はもっと自由だった。 新しい恋を見つけた時にも、子連れでなければもっと奔放になれていたのかも知れない。 母は私に気遣ってあまり女の部分を見せないけれど、本当はもっと情熱的に、心の底から相手を愛したのかもしれなかった。 それこそ、理性では抗えないくらいに。 真面目な人なのだ。 非道徳的な恋愛など。 まして自分も同じ裏切りをされて苦しんだ後で。 ――背徳感に酔って火が着くような人では、ない。 人目をはばかって、後ろめたさを全面に漂わせて、相手の離婚が成立し正式に再婚にこぎつけるまでの長い間、母は常に申し訳なさそうにしていた。 世間に、相手の家族に、そして私に。 その後ろ暗い恋愛中ずっと、私が枷になっていたのは明らかだった。 捨てられて、厭われて、生まれてきたことの意味を疑った。 私がいなければ。 いない方が良かった。 生まれてこない方が。 だけど――どれだけ自分の存在を否定しても、産んでくれたことを責める気は起こらなかった。
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