YA DO RI GI

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「初恋の思い出って、美化されるものよね」 自分でも驚くほど低い声が出た。 けど、男は怯まなかった。 そんなことはない、と言いたげな顔に被せる。 「会えなくなったって言ったわね、当てようか? 固い絆も深い愛情も上っ面の見せかけ。2人はその後間もなく離婚した。あんたはそれからお父さんの弟には会う機会があったかもしれないけど、初恋相手である奥さんには二度と会えなくなったのよ」 否定はされなかった。 目を逸らし、伏せる男に追い打ちをかける。 「会えなくなってから『綺麗なお姉さん』で自慰でもした? 気持ち良かった? ねえ。綺麗な思い出にしときたいんだろうけど、気持ち悪いよ。そういうの何ていうか知ってる? 近親相姦」 ――穢したかった。 美化されたぬるま湯みたいな彼の記憶を、ぶち壊してやりたかった。 めいいっぱい傷付けて、ここまで一緒に来たことを、私に昔話をしたことを後悔させたかった。 だけど、 「そういうんじゃない!」 ――男は初めて声を荒げて、真っ向から否定した。 「彼女は何て言うか、もっと……神聖な存在だったんだ。想像の中でだって、汚したことは一度もない」
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