19人が本棚に入れています
本棚に追加
ヤドリギの下で、女がはにかんでいた。
普段そういうことを人前でする女ではなかった。
周りにはやし立てられて、男はおずおずと前に出るとそっと彼女の頬に触れた。
誰もがその先を待っていた。
ヤドリギの下で、2人がキスを交わすのを。
女はにこりと笑って、それから小声で言った。
「ねえ……喜んでくれる?」
頬にかかった男の手を取り、彼女はその手をそっと自分の腹へいざなった。
その行動の意味に気が付いた周囲はざわめき、それからじっと2人の動向を見守った。
男は目を見開いて固まり、一瞬の空白の後、優しく女を抱きしめる。
それから長く熱い口づけを交わした後に、彼にしては珍しくはっきりとした口調で、周りに宣言するようにこう言った。
「結婚しよう」
わっと歓声が沸いた。
あちこちから祝福の声がかかり、女は涙を流して喜んだ。
その肩を抱く男はどこか恥ずかしそうにしながら、それでも浮かれているのが誰の目にも明らかだ。
歓びが、祝福が、幸せが、その空間には溢れていた。
――近い未来妻となる女の隣に寄り添って立つ男が、一瞬たりともこちらを見ることはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!