YA DO RI GI

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すれ違った男と、肩がぶつかった。 今日みたいな日、家庭がある人はもうそこに収まっているのかもしれない。 家族で、チキンとかケーキを囲んで。 クリスマスにはしゃぐ若い集団やカップルばかりが未だうろつくこの時間帯、スーツを着た仕事帰りらしきその男は1人だった。 「すみません」 条件反射的に小声でそう言ったけど、ぶつかったのはお互い様でそんなに悪いとも思っていない。 けど、なんとなく顔を見てあれ、と思った。 見覚えがある。 知っている人のような気がした。 そして向こうも、何かに気付いたような驚いた表情を一瞬見せた。 40代に足を突っ込んだくらいだろうか。 その年齢層ならば会社の先輩というのが真っ先に思い浮かんだけれど、どう思い返してもこんな人の世話になった覚えはない。 社員証らしきバッヂがスーツの襟に付いているが、それも見覚えがなかった。 「ええと……」 互いに思い出せない記憶に戸惑っていたからか、それとも向こうもそうだというのは私の思い違いでただ単にこっちがジロジロ見すぎたせいかは分からないが、男は困ったように頭を掻いて、それから笑った。 「クリスマスなのに、1人? どっか行く?」 「――は?」 10は年上、に見える男に、どうやらナンパされた。 あるいは物欲しそうな顔にでも勘違いされたのかもしれないが。
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