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脱いだコートとバッグを奥のベッドに放り投げる。
部屋には2つのシングルベッド、申し訳程度の備え付けデスクに、微かな唸り声をあげるミニ冷蔵庫。
狭いスペースの入口で行き場を探すかのように立ち止まったままの男を尻目に、ブラウスのボタンに手をかけた。
コートの下から出てきた少しだけパーティ仕様のその服装が、また私の気を荒立てる。
行くんじゃなかった、同期会のパーティなんて。
3つ目のボタンをはずし終わったところで、男がようやく我に返ったみたいに動いた。
「うわちょっと待って!」
上擦った声で慌てて、服を脱ぐ私の手を掴む。
「何、今さら……そういうつもりで来たんでしょ?」
「そうじゃ――とにかく着て! んで座って! 座っ……椅子1個かよクソッ」
思わず吹き出しそうになる慌てふためき様だった。
辛うじてそれを堪え、大人しく言われた通りに座ったのは当然ベッドの上だ。
「ごめん。行きずりでも雰囲気って大事よね」
隣をぽんと叩いたのは、そこにおいでよという意味だったのだけど。
男は長いため息を吐き出して軽く頭を抱えた後、1つしかない椅子を引っ張り出してはす向かいに陣取った。
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